わかったつもりにならず、毎回新たな気持ちで向き合う、丁寧な確認の積み重ねが導く、ナニーとしての確かなやりがい

優しい表情やユーモアに富んだ語り口で、周囲の空気をふんわりと和ませてくれるKさん。上品さと親しみやすさを併せ持つお人柄が信頼につながり、「またお願いしたい」とのお声が集まります。お子さまにもご家族様にも、あたたかく寄り添うKさんにお話を伺いました。
小さな変化に気づいて想像力で応える保育
─ナニーのお仕事を始めて9年になるそうですね。始めたきっかけを教えて下さい。
私には男の子と女の子、2人の子どもがおります。2人めの子どもが中学校に進学し、子育てがひと段落したタイミングで、これからの自分の人生に新たなステップをと思い、セカンドキャリアとして何か始めたいと考えるようになりました。結婚以来ずっと専業主婦として家庭を支えてきましたが、これまでの子育て経験を活かせる仕事として、ナニーというお仕事を始めました。
─ナニーになって良かったことを教えてください。
ナニーになってから、エデュケアという言葉を初めて知りました。自分が子育てをしていた頃には知らなかった保育のあり方を、体系的に学ばせていただけたことは、今のお仕事に向き合う上での大きな支えとなっています。
研修を通じて、自己肯定感の育み方や、お子さまの睡眠リズムの大切さなど、多くの保護者様が悩まれているテーマについて、より自信を持ってお応えできるようになったことは、私にとって大きな学びであり、貴重な経験です。こうした知識やスキルを身につける機会をいただけたことに感謝しております。
─お子さまと関わる上で活かされているご経歴やスキルなどがあれば、教えていただけますか。
男の子と女の子の子育て経験と、子育て支援センターで非常勤職員として勤務していた経験があります。
保育士資格は、ナニーの仕事を始めてから取得しました。資格を持っていれば良いお世話ができるということではありませんが、子育て経験だけでは得られない知識を身につけ、それを仕事に活かせるのであれば、という思いから勉強を始めました。
中には法律に関する科目などもあり、難しい用語を覚えなければならず、正直苦労しました。ですが、お子さまやご家族のためになると信じて、気持ちを奮い立たせて取り組みました。国の制度や支援について正しい知識を持ち、それをお子さまやご家族のために役立てることも、私たちの大切な役割です。特に、お母様からご質問をいただいた際には、自分の経験談だけでお答えするのではなく、正確で信頼できる情報をお伝えしなければなりません。その思いが、資格取得の大きな原動力となりました。
実際のところ、保育士の資格がないと対応できないようなご質問は、それほど多くはないのが正直なところです。ただ、自分自身が自信を持ってお答えできるという点では、この資格が大いに役立っています。
また、資格を持っていることで、お母様に安心感を持っていただけると感じます。「保育士の資格をお持ちなんですね」とお声がけいただくこともありますので、やはり資格を持っていて良かったなと思います。
お母様にとって、「資格がある」という事実が一つの信頼や安心感につながっているのではないでしょうか。
─日々のお世話の中で、大切にされていることや、心がけていらっしゃることを教えていただけますか。
お世話の中で私が常に心がけているのは、どうしたらお客様により寄り添い、ご要望に丁寧にお応えできるかということです。長く継続してお世話をさせていただいているご家庭であっても、毎回「はじめまして」という新鮮な気持ちと姿勢を大切にしています。
また、どうすればお子さまやご家族様に喜んでいただけるか、より良いお世話になるか、想像力を働かせて考えています。ただ、それが本当にそのご家庭に合っているのかどうか、自分の思い込みや一方的な押しつけになっていないかを常に意識しています。お母様のお話や表情から丁寧に気持ちを汲み取りながら、必要に応じて柔軟に調整するよう心がけています。
そうした気づきや工夫の積み重ねが、お世話の質を高めることにつながっていると感じています。
言葉だけでは汲み取りきれないお気持ちもありますので、「これでいいのかしら?」「こうしたら喜んでいただけるかしら?」と、日々さまざまな角度から考えています。やりすぎにならないように、その加減にも気を配りながら、心を込めてお世話をしています。
お客様がご希望なさっていることに、どれだけ寄り添い対応できるかということも大切です。たとえ毎週、あるいは隔週、週に2回、3回と定期的にお伺いするご家庭であっても、その日その時で状況は変わります。
お子さまのその時々の体調や感情、直前の親子の会話や出来事など、毎回違う状況があることを前提に、毎回が新しい時間という気持ちをもって、常に変化するものとして向き合うことを忘れないように心がけています。
お世話において、私は「空気のような存在」でありたいと思っておりまして、必要な時にそっと手を差し伸べ、けれど過度に気配を感じさせないよう、さりげないサポートを心がけています。
なによりも私がいることで、いつものご家庭のご様子が出せなくなってしまうと、ご家族の皆さまに負担をかけてしまうことになります。そのさじ加減はとても難しいですが、お子さまやご家族が自然体でリラックスしてくださることを何より大切にしています。
例えば、お母様がふと鼻歌を口ずさんでいる姿をお見かけすると、「少しはこの空間に溶け込めているのかな」と、ほっと胸をなでおろすことがありますね。
お子さまの笑顔が原動力。宝物のような時間を共に

─実践されているエデュケアについて教えていただけますか?
あるご家庭では、お母様からお遊びの中で数の概念を取り入れてほしいというご要望がありました。それを意識しながら、おもちゃを使って「おやつをくださいな」といったやりとりを通して、数への興味が自然と深まるような遊びをご提案することもあります。
お子さまの反応を見ながら、「3個じゃ少ないよ〜、もっとくださいな!」などといった言葉がけで遊びに変化をつけ、単調にならないように工夫をしています。遊びの中で楽しみながらお子さまの気持ちを引き出して、少しずつステップアップできるように意識しています。
エデュケアを期待してご依頼いただいているということを常に胸に留め、プロとしてその役割を果たせているかを日々自分に問いながら、お子さまと向き合っています。
─お子さまのやる気や気持ちを引き出すアプローチについて教えていただけますでしょうか。
クスッと笑っていただけるような言葉がけです。もちろん、丁寧で正しい言葉遣いで接することを大切にしながらも、時にはぬいぐるみなどのアイテムを使いながらそれになりきって声をかけ、面白い!と感じてもらえるような工夫をしています。笑いを通じてお子さまとの距離が縮まり、自然と心を開いてくださるんです。
堅苦しい雰囲気よりも、楽しく、面白く過ごすことを第一に考え、その上で、お母様のご要望や、お子さまの成長段階に合わせて、どのように関わりを組み立てていくかを常に考えています。
お世話には“ライブ感”が大切だと思っていますので、お子さまから心から楽しんでくれているような反応が得られるよう、その瞬間に合わせて、面白おかしく、気分が盛り上がるような声かけや動きで関わります。
試行錯誤しながら自分の引き出しの中にある、あらゆるアプローチを試します。中には、どうしても応じていただけないお子さまもいらっしゃるので、正直こちらが心折れそうになることもありますが、「決してあきらめない」という信念を持って向き合っています。
宿題のお見守りなどは特にそうですが、「やらされている」と感じてしまうと、お子さまもつい構えてしまいがちです。ですので、クスッと笑っていただけるような声かけをして、楽しく机に向かえる雰囲気づくりをしています。たとえば「わっ!どうしようKさん、この問題わからない!だ~いピンチです!」などとお声掛けさせていただきますと「も~しょうがないなあ。教えてあげるよ~」や「そんなわけないでしょ! 大人だからわかるでしょ!」と笑顔でツッコミを入れながら机に戻ってきてくださることもあるんですよ。
─印象に残っている出来事やエピソードがあれば教えていただけますか。
印象に残っているエピソードを一つに絞るのは本当に難しいのですが、やはりいつまでも心に残っているのは、お子さまの笑顔やお世話中に感じたぬくもりです。
笑ってくれた瞬間、その表情に触れたとき、このお仕事を続けていて本当に良かったと思えますね。私にとって、その笑顔こそが原動力となっています。
どんなに小さなやりとりであっても、お子さまが心を開いて笑顔を見せてくれたとき、その一つひとつが宝物のような時間であり、また次も笑顔を届けたいという気持ちにつながります。だからこそ、毎回のお世話の中で生まれる出来事が、すべて私にとって大切なエピソードです。
信頼は聞く姿勢から。細やかな心づかいを大切に

─保護者様とのやりとりの中で、大切にされている姿勢・工夫などがあれば、教えてください。
一人よがりになってはいけない、分かったつもりになってはいけない。これは常に自分に言い聞かせていることです。
いつもこうだから大丈夫、きっとこういうご希望なのだろう、と思い込んでしまうのはとても危険です。以前はそうだったとしても、今日は違うかもしれない。だからこそ、その都度きちんとお話を伺い、一つひとつ確認することを大切にしています。
お話を聞いたうえで、自分なりに想像を膨らませて「こうして差し上げたらよいのでは」と考えることもありますが、そこで一度立ち止まり、「本当にこれで良いのか」と自分に問い直します。そして、必ずお母様に確認を取ります。
「きっと正しいはず」と思う気持ちを一度抑え、“待つ”慎重さを持つこと。立ち止まることを恐れず、丁寧に対応すること。それが、信頼につながると信じています。
また、お母様が答えやすいように、質問の仕方にも工夫をしています。ご不快にさせてしまうような受け取り方にならないよう、言葉選びには細心の注意を払います。
以前に「嬉しいわ」と言っていただいた対応であっても、その日のご気分やご事情によっては違うかもしれません。たとえ何度も同じ内容であっても、「確か以前はこのように伺いましたが、今回も同じでよろしいでしょうか?」というように、改めて確認をとることで、お母様が「はい、その通りです」と自然にお答えいただけるような聞き方をしています。
実際にお声がけするタイミングも大切です。会話の流れやこれまでのお話を踏まえ、言葉を選んでお尋ねしています。
お子さま一人ひとりに個性があり、月齢や年齢によってもお世話の内容は変わってきますので、実際にお世話に入らせていただく際は、前日のお打ち合わせで伺った流れを忠実に守るようにしています。お子さまのその日のコンディションに応じて、お遊びの内容をアレンジしたり、時間を長くとったり短くしたりと調整を加え、トータルでお子さまにも満足していただけるようお世話を行っています。
─ナニーのお仕事の中で難しさを感じることはありますか?
このお仕事は常に多くの情報を収集し、それを分析しながらお世話に反映させる必要があります。頭の中をフル回転させながら取り組むことが求められる点は、確かに難しさを感じる部分かもしれません。
ですが、それと同時に、そうした瞬間ごとの判断や対応がうまく噛み合ったときの達成感は大きく、やりがいにもつながっています。
例えば、その場の会話の流れやお子さまの反応を受けて、「今はこの言葉が合いそう」「このアプローチが響くかもしれない」と考え、選んだ言葉や行動がまるでパズルのピースのようにぴたりと収まったときには充実感があります。
また、お子さまが「やりたくない!」「嫌だ!」という気持ちのときでも、私の関わり方次第で意欲的になってくださることがあります。そうした経験の積み重ねが、私自身の引き出しとなり、よりよいお世話につながっているのだと思います。
─お世話の際、どのようなものを持参されているのでしょうか。
これは「衛生セット」と呼んでいるのですが、ウェットティッシュ、マスク、体温計、救急用品、ニトリル手袋などを揃えています。ウェットティッシュは、大きなサイズから鼻用、水に流せるタイプまで、用途に応じていくつかの種類を用意し、どんな場面にも対応できるようにしています。また、少しかわいらしいデザインの袋は、ごみ袋として使えるほか、お子さまがどんぐりや松ぼっくり、きれいな葉っぱなどを拾って持ち帰りたいとおっしゃることもよくあるので、とても重宝しています。
さらに、自分用の予備の靴下やソーイングセット、歯みがきセットも一緒に入れて持ち歩いています。
こちらの45リットルサイズのビニール袋は、公園に遊びに行った際、たとえ晴れていても芝生が湿っていることがあり、お子さまの荷物が濡れてしまうことがあります。そういった時にレジャーシートの代わりとして使えるため、とても便利です。お子さまがおやつを召し上がる時にも活用でき、このサイズが丁度良いんです。また、お迎えの際に急な雨で荷物が濡れそうな時にも、さっと袋に入れて雨に濡れるのを防ぐことができるので、非常に重宝しております。
特に鏡は、身だしなみを整えるためにも使いますが、それだけでなく、お世話のアイテムとしても活用できます。例えば、お口を拭くのを嫌がるお子さまの場合、鏡を見せながら「ティッシュできれいにしてみましょうね」とお声がけをすると、自分の姿を確認しながらお口を拭いてくれることがあります。自分で納得して行動できるという点でも、鏡はとても役立ちます。
また、泣きやまない乳幼児のお子さまに鏡を見せると、不思議と泣き止むこともあり、そういった意味でも鏡は欠かせないアイテムです。
不思議なものですが、これだけしっかり準備をしておくと、大きな怪我が起こることがないんです。ティッシュやビニール袋といった消耗品はどんどん使っていくのですが、大きな怪我を想定して用意しているフリーサイズの大型絆創膏は、この9年間で一度も使ったことがありません。それでも、万が一に備えて、今後も変わらず万全の準備を心がけ、事故が起きないよう気を引き締めてお世話にあたっていきたいと思っています。
─ポピンズでナニーになろうとしている方へメッセージをお願いします。
お子さまの笑顔は、本当にかけがえのない宝物です。このお仕事には、楽しさとやりがいがたくさん詰まっています。
「Kさん、楽しみに待ってたよ!」と言ってくださるお子さまやお母様のお言葉に、心から喜びを感じますし、「もう帰っちゃうの?」と名残惜しそうにしてくれるお子さまに、お母様が「大丈夫、Kさんはまた来てくださるからね」と声をかけてくださって。そういった瞬間、「この仕事をしていてよかったな」と実感します。
ナニーは、お子さまとご家族の大切な時間に寄り添える、かけがえのない仕事です。これからナニーを目指す方にも、ぜひその喜びを感じていただきたいです。
─今までの経験を誰かのために活かしたいと、ナニーとしての道を選んだKさん。実際に始めてみると、お子さまの笑顔に元気をもらい、保護者様からの感謝の言葉に励まされる日々。ナニーは子育ての経験がそのまま力になる仕事、と実感されているそうです。Kさんのように、ご自身の子育て経験を活かしながら、誰かの力になれるお仕事を始めてみませんか?ご興味のある方はぜひこちらをご覧ください→

この記事を書いた人

- なおこ
- 小学校に通う男の子のお母さんナニーです。活発なお子さまのお世話が得意なので、日々一緒に楽しく遊んでいます。 お子さまに寄り添い、お母様に共感し、みんなが笑顔になるような発信ができればと思っております。